最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)425号 判決
上告代理人弁護士小田成就の上告理由は別紙記載のとおりである。
上告理由第一点について。
論旨は、要するに、被上告人の行為は、地方自治法一三四条一項の懲罰事由に該当するというのである。しかしながら、右条項が議員の懲罰を規定しているのは、議会の秩序を維持し、その運営を円滑ならしめるためであつて、議員の個人的行為を規律するためではない。従つて議員の議場外の行為であつて、しかも議会の運営と全く関係のない個人的行為は同条による懲罰の事由にならないものと解するを相当とする。これを本件について見るに、被上告人除名の理由は、同人が安堵村大字東安堵北方の大字会計員として在職中右職務上保管中の同大字環境改善費を横領したというのであつて、かりにかかる事実があつたとしても、被上告人の右の行為は議会と全く関係のない行為であつて、原判決が上告人のした除名を違法としたのは至当である。議員が全体の奉仕者として職務を尽すべきことは所論のとおりであるが、このような義務は、議員としての地位に伴う義務であつて、議員たる地位を離れた行為について憲法一五条二項の趣旨に反する行為ありとして懲罰を科することができるものではない。また所論のように近時議員が自己の利益追及に汲々たる例が多く、このような議員を排斥することが望ましいとしても、このような目的を達するには適当な他の方法によるべく、そのために地方自治法一三四条一項による除名を正当とすることはできない。論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は、上告人議会の会議規則三八条一号は実体規定でないというのであるが、同条が実体規定であつて、手続規定でないことは極めて明白であり、そして上告人が同条を適用して被上告人に懲罰を科したことは、当事者間に争いのない事実として原判決の確定するところである。論旨は理由がない。
以上説明のとおり本件上告は理由がないから、これを棄却することとし民訴四〇一条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
この判決は裁判官栗山茂の少数意見を除き裁判官全員一致の意見によるものである。裁判官栗山茂の意見は当裁判所昭和二七年(ク)一〇九号、同二八年一月一六日大法廷決定(民事判例集七巻一号一二頁)中の反対意見のとおりである。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告代理人弁護士小田成就の上告理由
第一点 原判決は判示理由中「安堵村会会議規則第三八条第一号によると、村議会の議員に村会議員たる義務を怠り又は議員たる名誉を失墜する行為のあつた場合は議会に諮り懲罰処分に付するものとするとあるが、この規定の適用するについても右の限度(議員の議会外における言動であつてもそれが直接議会の品位を汚しその権威を失墜するような言動に限られるものと解するを相当とし)を越ゆることが許されないものであつて、被控訴人の前記非行は安堵村の議会外における行為であつて直接同議会の品位を汚しその権威を失墜する行為でないのでこれを懲罰の対象とすることは許されず、これを対象としてなされた被控訴人に対する本件除名の議決は違法であつて取消を免れない」と判示さるゝも右は法律の解釈を誤りたるものなり。
地方自治法第一三四条に基き議員に懲罰を科し得るは議員の行為がこの法律及び会議規則に違反したる場合にして、この法律とは地方自治を指すこと明なるも単に地方自治法の個々の条文のみならず憲法第十五条第二項の規定も当然この法律中に包含するものと解すべきものなり。即ち地方議会の議員は明に公務員なる以上憲法第十五条第二項の「すべて公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者でない」との規定は当然地方議会の議員の責務にも当てはめて解するを至当とし、従つて地方議会の議員は当然地方住民に対し全体の奉仕者として良心に従い誠実に職務を行うべく自己は固より一部の特定の者の利益を図る可からざる義務を負うものなり。而してかかる義務の遵守は単に議場内に於てのみ要求せらるべきものにあらず広く議会外の行為に於ても同様に要求せらるべきものなり。近時地方議会の議員が其の地位を利用して職権を濫用し全体の奉仕者として重要責務を忘却し自己の利益追及に汲々たる事例多き事態に鑑み斯る議員の行動に対し議会自身が自発的に懲罰を科し民主政治の健全なる運営発達を企図するは当然為すべき権限なりと思惟す。
本件被上告人たる中沢由蔵は安堵村環境改善事業施行に関し村会議員として右事業の予算の議決に参画し仍て右村営事業の適正妥当なる執行を監督すべき地位にあるに不拘却つて其の地位を利用して多額の村費を自己の利益の為に着服横領したるものにして之が為昭和二十七年九月三十日附を以て奈良地方検察庁により起訴せられ昭和二十八年五月二日奈良地方裁判所に於て懲役一カ年、執行猶予二年の判決言渡を受けたる次第にして被上告人の斯る不正行為は議員として憲法並に地方自治法違反に該当し議員たる責務違背者なりとして安堵村議会に於て懲罰特別委員会を開催し之が非行の内容を検討したる上村議会に於て除名議決を為したるは議会の権威保持と議員の名誉保持の為当然の行為にして、判示の如き違法処分に非ざるなり。
第二点 原判決は判示後段に於て「昭和二七年三月三一日可決制定せられた前記会議規則第三八条第一号は懲罰に関する実体規定であつてこれに遡及効を認むべきでなく、従つて右規則制定以前に行われた被控訴人の前記非行につき右規則を適用してなされた本件除名議決は違法であつてこの点からも取消を免れないものといわなければならない」と判示せらるるも会議規則第三十八条の規定を目して直ちに刑罰法規の実体規定同様に解せらるる処に右判示の誤りあるものにして本件被上告人に除名議決を為したるは実体は地方自治法第一三四条第一項の「この法律に違反した議員に対し議決により懲罰を科することができる」の規程に淵由するものなり。会議規則第三十八条は地方自治法の定むる懲罰を科すべき場合の例示に過ぎず、万一会議規則未制定の自治体ありとせんかこの法律のみによりて懲罰を科し得ると同然なり。
以上の理由により原判決はこれを破毀する旨の判決を求むる次第なり。 以上